「静かな退職」が、大変話題になっていますね。
「静かな退職」が意味するところは単純で、要求されたことだけを行い、給料が支払われる時間に始業し、給料が支払われる時間に退社すること、そしてどんなことがあっても、昼休みも含め、プライベートの時間には働かないことだ。
「静かな退職」といっても、仕事を辞めるわけではない、ということですね。
労働契約や就業規則、労働法制に定められたルール通りに働くという、当たり前のことを言っているに過ぎません。
逆に言えば「ルールを守って働く」というただそれだけの事が、今まで如何に蔑ろにされてきたか、ということです。
何年か前から、政府が企業に対して「賃上げ」の要請を行う、という珍妙な事が起こっていますね。
いわゆる「官製春闘」です。
いやいや、順番が違うやろ。まずはサービス残業やら休憩未取得やらを何とかすべきや!
私は、そう思いましたね。
そしてそれは「お上」に何とかしてもらうのではなく、労働者自身が立ち上がらねばなりません。
自らの権利が侵害されているのならば、自らが動かねばなりません。
当り前のことです。
この辺りは、以前記事にしましたね。
世界各地で「静かな退職」ムーヴメントが発生しています。
イギリスの人材紹介会社「Randstad」が行った最近の調査では、Z世代とミレニアル世代の労働者の約半分は、仕事で幸せになれない場合、無職になることも辞さないと考えていることが明らかになった。「半数以上(Z世代の56%、ミレニアル世代の55%)が、人生を楽しむことの妨げとなる場合、仕事を辞めると答えた」と調査結果は述べている。
先日の記事でも紹介しましたが、アメリカにおいても既に労働者の半数以上が「静かな退職」を実行しているそうです。
そして我が日本。
何年か前に、大変面白い実例があります。
2018年4月18日、JR東京駅構内の自動販売機で売り切れが続出しているという情報がインターネットを駆け巡った。きっかけは労働組合「ブラック企業ユニオン」による次のツイートだ。
東京駅をご利用の皆さんにお知らせしたいのですが、駅構内の自販機で現在「売切」が続々と発生中です。これは自販機大手ジャパンビバレッジで働くブラック企業ユニオンの組合員が、残業代未払いや組合員の懲戒処分に対し、残業ゼロ・休憩1時間の「順法闘争」で闘っているためです。ご理解ください。
写真付きでストを告知したこのツイートは瞬く間に拡散し、およそ5万6000リツイートされ、4万4000の「いいね」がつけられた。
ジャパンビバレッジでは、労働者は日常的に休憩時間すら取れず、1日15~16時間労働という過酷な勤務を強いられていました。
残業代も適切に支払われず、パワハラも常態化していたといいます。
従業員が仕事でミスをすると、「公開処刑メール」と称してミスの内容や従業員が書いた謝罪文などを支店の全従業員のメールアドレスに転送したり、ミスの罰則として腕立て伏せ100回や、ほかの従業員全員へのエナジードリンク購入、1カ月間ゴミ捨て当番などのメニューが書面で用意されていた。
無茶苦茶ですね^^;
読んでるだけで、胸クソが悪くなってきます。
このような会社の仕打ちに対し、労働者は「休憩1時間、定時終了」を徹底する「順法勤務」で対抗しました。
「順法勤務」とは、即ち「ルールに則って働く」こと。
そう、「静かな退職」と同じ理念です。
当ブログ風に言えば「法と道徳のスプレッドを刈り取る」ですね。
あくまで「ルール通り」に働くのですから、会社は手も足も出ません(笑)
この結果、会社は「労働者の増員」「休憩の取得」「未払い賃金の支払い」を行いました。
日本でも「静かな退職」に先駆けて、心強い実例はあるのです。
日本における「静かな退職」は、正社員階級に対する階級闘争でもある
アメリカで発生した「大退職」は、労働市場のひっ迫を発生させました。
結果、全労働者の平均時給は実に4,500円を超えたようです。
「静かな退職」は、これに拍車をかける可能性がありますね。
アメリカのインフレは、いよいよ粘着性を高めつつあります。
日本のような解雇規制がないアメリカで「静かな退職」が広がった背景には、この労働市場のひっ迫があるのでしょう。
労働市場が「買い手市場」、つまり企業側に有利であれば、「静かな退職」実施者はリストラされる恐れもありますからね。
まさに「絶好のタイミング」で、アメリカの若者たちは行動を起こした、ということです。
さすがですね。
この代償は、株主が支払う事になります。
人件費上昇に伴うEPS低下、そしてインフレ抑制のための利上げによるPER低下ですね。
彼らは、一時的にせよ資本家に対する階級闘争に勝利したのです。
…しかし、この労賃上昇は、長い目で見れば「進化圧」になるとも言えます。
AI,ロボット、FA(工場の自動化)等の進化を早め、いずれ多くの労働者を不要にするでしょう。
逆に言えば、そうなる前に労働者が「打って出た」とも言えますね。
さて、我が日本の労働者は、どう行動するでしょうか。
日本においても、少子高齢化に起因する人手不足は、いよいよ深刻化しています。
企業は働き手の確保に、奔走しています。
解雇規制の有無にかかわらず「静かな退職者」のリストラなど、不可能でしょう。
現代はSNSの発達により、個人個人が強力な発信力を持つようになりましたからね。
もし強行すれば、Twitterやらブログやらで、一気にブラックイメージを拡散されるでしょう。
人手が喉から手が出るほど欲しい状況で「ブラック企業」のイメージは致命的です。
企業はもはや、身動きが取れない。
労働者、特に非正規労働者によっては、千載一遇の好機です。
同一労働同一賃金を二十条裁判で進めるのは、ここらが限界でしょう。
正社員の特権的地位を破壊するには、賃金インフレを起こすのが一番です。
正社員の給与は上下双方に硬直性が高いため、デフレ時には強いがインフレには脆弱だからです。
非正規社員は比較的流動性が高いため、労働需給に素直に反応するでしょう。
アメリカの様に時給4,000円にでもなれば、正社員の特権など、完全に形骸化しますね。
つまり「静かな退職」は、「正社員階級」に対する階級闘争とも言えるのです。
さあ、ここからが見ものです。
日本において、本当の意味での同一労働同一賃金が実現されるか否か。
この千載一遇のチャンスを生かすも殺すも、全ては労働者次第です。
まずは休憩時間だけでも、しっかり休んでみませんか?