こんばんは!
サイコパスの郵便屋さんです。
先日、SNS上で「金融資産が2,000万円もあれば、FIREは可能だ」という意見を見ました。
・田舎在住で
・高い倹約意識を持ち
・ミニマムな生き方を徹底する
事で、それは可能になる、ということです。
なるほど、なるほど。
いわゆる、Lean・FIRE(倹約しながら最低限の生活費を資産運用して生活する)というやつですね。
最近は、こういった「少額FIRE」を耳にすることが増えてきました。
ちょっと前までは「一億ぽっちでFIREする奴の末路」とか言われてたのにね(笑)
それだけ、みんなが早期リタイヤを渇望している、ということなのでしょう。
お気持ちは、大変よく分かります。
ただ…
こういった「少額FIRE」の議論を見るたびに、筆者は大きな懸念を感じるのです。
それは、マクロ的な問題です。
「労働需給のひっ迫」と、それによる「インフレ」です。
FIREの大敵はインフレである
これについては、論を俟たないでしょう。
インフレは、相対的に「金融資本」の価値を押し下げ、「人的資本」の価値を引き上げるからです。
現在進行中ですよね。
FIREの基本は、「金融資産を構築し、その運用によって労働(人的資本の使用)から解放される」というものです。
従って、FIREとインフレの相性は最悪といえます。
「ならば、人的資本を活用して、新たな付加価値を創造すればよい」と言われるかもしれません。
しかし、それを言い出すと「そもそもFIREの定義とは何ぞや」って事になります。
単なる「独立」「転職」と何が違うんだと。
「生活のための労働」を強いられる時点で、それはFIREとは言えないでしょう。
インフレが持続的(スパイラル的)になるには「労賃」の上昇が必須です。
単なるコストプッシュでは「家計」つまり「需要」が耐えられませんからね。
アメリカで、それは現在進行中です。
平均時給約32ドル!
日本円だと(1ドル=138円)、時給4,400円以上ですね^^;
すげぇ…
そして、この労賃高騰をもたらしている大きな要因となっているのがFIREです。
以前、記事にもしましたよね。
特に、中高年層の労働参加率低迷が大きいです。
55歳以上では「引退」が増えている。足元では株価が大きく下落しているが、数カ月前までは金融緩和を背景に株高が続いており、労働者の間で老後の生活資金への不安が薄れるという動きがあった。引退した労働者数は4月時点で2020年2月と比べ300万人増加しており、労働参加率の低下をほぼ説明できる。
逆に言うと、この層を労働に引き戻すには「株価下落」を引き起こすのが手っ取り早い、とも言えますね。
もちろん、これは物事の一側面に過ぎませんが。
日本においてはどうか
翻って、日本の状況はどうでしょうか。
日本の場合、FIREというよりは「少子高齢化」による労働市場ひっ迫といえます。
連合ホームページより引用
賃金は、全く上がっておりません。
要因としては、「労働市場の流動性の低さ」が、よく言及されますね。
つまり、マルクスのいうところの「労働力商品化」が不十分だという事です。
メンバーシップ型雇用、解雇規制、「長期雇用」を前提とした退職金控除制度etc
こういった日本の労働市場の特殊性により、労働力が自由市場で取引されるような「商品」になっていない。
つまり、需給要因で労賃が決まりにくい、ということです。
では、日本においてはアメリカのような「FIREインフレ」は無縁なのでしょうか。
「資産2,000万円でのFIRE」を考えてみましょう。
一目見て「あ、だめかも」と感じますよね。
資産3,000万円を超えるアッパーマス層以上に限っても、約1,180万世帯。
全体の2割を超えてきます。
もし資産2,000万円クラスで「FIREブーム」が発生したら?
労働市場は、ひっ迫どころか崩壊。
インフレどころか、インフラが維持できなくなるでしょう。
例えば…
・マーケットは、街に1か所。
全ての商品は事前予約が必要となり、欠品も相次ぐでしょう。
現金とともに「配給切符」が要されるかもしれません。
・宅配便は、隣県60サイズで5,000円以上。再配達は不可。
対面配達は廃止され、すべて玄関前への置き配になるでしょう。
郵便配達は週1回。町内に設置された「共同ポスト」にまとめて配達され、各自が受け取りに出向く必要がでてくるでしょう。
・救急、消防も有料化。
台数も制限され、通報から数時間待ちになることもザラに。
オペレーターも無人化され、自動応答になるでしょう。
・警察も、交通取り締まりは廃止。
代わって、全ての乗用車に監視機器の設置が義務付けられ、違反・危険運転の都度、罰金が口座から自動引き落としに。
圧倒的な供給力不足社会です。
資産2,000万円でのFIREがブームとなった日には、それはそれは悲惨な社会になることでしょう。
FIREがマクロ的に成立するには
モノやサービスの供給を維持するには、結局はGDPを維持しなければなりません。
そしてGDPの維持・成長には、労働投入量(就業者数×労働時間)の維持・拡大が欠かせません。
GDPとは国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計数のことで、大雑把には「労働力人口×労働時間×労働生産性」と考えることができる。つまり、労働者が増えるか、労働時間が増えるか、労働生産性が増えればGDPは上がる。逆に減れば、GDPは減少する。
これまでの予測から生産年齢人口が大幅に減るのは確実であり、対策がないままでは、労働力人口も減ると考えるのが自然である。さらに言えば、生産年齢人口率が減るのだから、人口減の割合以上にGDPが下がってもおかしくない状況だ。
中略
今後の施策として有力なのは、高齢者の活用である。高齢者そのものの定義を変えてしまい、65歳ではなく70歳、あるいはそれ以上に引き上げることで、労働力人口を増やすことができるだろう。またこの施策は、労働力人口対策だけでなく、年金支給額を減らし、さらに仕事による生きがいづくりから医療・介護費を減らす効果まで見込める。
そして実際、高齢者の就業率は上昇し続けています。
近年の日本における経済成長は、高齢者・女性の就業率上昇に依るものが非常に大きいと言えます。
逆に言えば、一人の人間がFIREするには、それに代わる労働投入が必要だという事です(生産性及び資本投入量は一定と仮定)。
・高齢者の就業率を更に高めるか
・既存労働者の労働時間を延長するか
そのいずれかになるでしょう。
…どっちも、現に労働の現場で進行中ですね(笑)
うちの班は高齢者ばかりですし、毎日が残業漬けです。
こうなることは、マクロ的に初めから分かっていたことだと言えますね。
さて、結論です。
資産2,000万円でのFIREは、マクロ的には決して成立しないと言えるでしょう。
劇的に健康寿命が延び、高齢者が90歳まで働いてくれれば可能ですが(笑)
あるいは労働基準法が改正され、1日12時間労働が「正規の勤務時間」になるか。
現実的には、少なくとも1億円以上でのFIRE(それでも130万世帯もいる)しか成立しないでしょうね。
…最後に一つ。
日本の労働者は、非常に生真面目です。
人手不足で本来は回らないはずの現場を、無理やり「現場の努力」で回したりします。
・サービス出勤
・休憩を取らない
・有給も極力取らない
こんな感じですね。
労働者にとっては、たまったものではありませんが、FIRE成功者=資本家にとっては、誠に都合の良い事でもあります。
労働者と資本家の両面を併せ持つ「FIREを目指す者」にとっては、誠に悩ましい問題です(笑)
この「現場の努力」のベースになっているのが「みんなに迷惑を掛けたくない」という「道徳」です。
日本企業は、終身雇用と年功序列によって、会社を「家族的共同体」と錯覚させることでこの「道徳」を成立させてきました。
俺たちは仲間じゃないか。家族じゃないか。
苦しい時も、みんなで我慢していけば、乗り越えられる。
だから、法律だのコンプライアンスだの、水臭いものを持ち込むなよ。
そして、この「道徳」を成立させてきた「会社」の経済的基盤は、急速に崩壊しつつあります。
労働者にとっては、反撃のチャンスです。
日本は法治国家です。
法律こそが、すべての基準となります。
しかし、前述の「道徳」によって、労働者は法を超えた労働を強いられている。
この「法」と「道徳」のスプレッド(差)を刈るのです。
「道徳」によって、同じ労働力が不当に安い値段に歪んでいる。
これを、法の基準で、正当な価格で買い取らせる。
一物一価、アービトラージです。
今回は資本家の視点で、この「道徳」を「都合の良いもの」として書きました。
しかし、筆者は労働者でもあります。
次回は労働者としての視点から、この「道徳」を批判的に見ていこうと思います。