こんばんは!
サイコパスの郵便屋さんです。
3月12日号の週刊ダイヤモンドで「物流危機」が特集されています。
宅配大手が荷物の総量規制と配送料の値上げに踏み切る「宅配クライシス」に震撼したのが2017年。
あれから約5年たった昨年末、宅配最大手であるヤマト運輸の配送現場は大混乱に陥っていた。
値上げして減らしたアマゾンの荷物を値下げして再び取り込んだ結果、荷物があふれ返り、ドライバーたちは悲鳴を上げた。クライシス再到来である。
その結果、何が起こったのか。
「社員は昼食や休憩時間なしで働いた」
「勤務時間中はひっきりなし。ここは家に帰れる刑務所だ」
「サービス残業やサービス出勤で対応」
またか、というのが率直な感想です。
そして、これはヤマトだけの問題ではありません。
日本企業の、いや日本社会のコンプライアンス不全・ガバナンス不全(株主軽視)にも通底する、非常に根が深い問題だと考えます。
今日は、そのお話です。
「未払い残業代」問題を中途半端にしたツケ
ヤマトで未払い残業代が発覚し、約230億円という巨額の支払いを行ったのは2017年のことです。
この時の世論を、筆者は鮮明に覚えています。
「サービス残業で懸命に働く配達員」への同情
「潔く非を認めたヤマト」への賞賛
「不当に安い運賃しか支払わない荷主(アマゾン等)」への非難
こうでした。
極めて日本人的な、道徳的感情だと思います。
法治国家日本の、リアルな姿がこれなのです。
そこには「法」「契約」への尊重はありません。
素直に法に則って考えれば、すべての責任がヤマトの経営陣にあるのは明白です。
「不当に安い料金」で契約することを最終的に判断したのは誰か。
そのような環境(ワイドモートがない)に至ったのは誰の責任か。
そこで発生した矛盾を「現場の自主的な頑張り」に押し付けたのは誰か。
全て、ヤマト経営陣ですね。
そして、この責任追及を曖昧にしたのが、すべての元凶だと考えます。
未払い残業代を負担したのは株主
未払い残業問題が発覚し、ヤマトの株価は急落しました。
これにより、時価総額500億円以上を失ったことになります。
未払い残業代230億円+α(イメージ低下、将来の人件費増など)の損失は、すべてヤマト株主が負担した事になります。
そして、経営陣への責任追及は一切ありませんでした。
わずかに「山内雅喜社長ら3人の取締役が報酬の3分の1を6カ月間減額する」ことを自主的に発表しただけ。
ふざけた話だと思いませんか?
株主が「事業リスク」を最終的に負担するのは当然です。
しかし、それは「IR=企業による投資家向け情報開示」が正確であることが大前提でしょう。
僅か2年分の未払い金を支払っただけで、230億円もの人件費増となる。
もはや、虚偽のIRといってもよいでしょう。
PERを始めとする、投資指標も意味を成しません。
投資家は、いったい何を見て投資判断を下せばよいのか。
株主は、もっと怒るべきです。
株主は、ヤマトという事業のオーナーです。
会社は経営陣のものではなく、株主のものなのです。
ここで怒らねば、何のための株主なのか。
取締役は、会社に対し「忠実義務」を負っています。
会社法355条によると、
取締役は法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し株式会社のため忠実にその職務を遂行する義務(忠実義務)を負う
となっています。
未払い残業の場合、労働基準法第37条違反です。
休憩時間未取得の場合、同法第34条違反。
また、休憩未取得に起因した事故等があった場合は、労働契約法第5条の安全配慮義務違反にも問われるでしょう。
取締役は、これらの事実を知りながら(労基署からの度重なる勧告)再演防止の体制を構築しなかった。
これは、取締役の任務懈怠責任に当たるでしょう。
株主代表訴訟(※)により、会社(株主)として取締役の責任を追及すべきと考えます。
230億円は、会社ではなく取締役個人が負担すべきでしょう。
まあ、どうせ保険には入ってるでしょうが。
いずれにせよ、株主に帰責すべき問題ではありません。
虚偽 のIRによって、経営陣に騙されたのですから。
こういう事案で、きちんと「モノを言わない」ことが、結果として日本における株主軽視につながっているのではないでしょうか。
万国の資本家よ、団結せよ!ですw
「周囲の空気」に流されるな
サービス出勤、サービス残業で休憩・昼食もとらず、懸命に現場を回す配達員。
ヤマトの件では、大いに同情を集めました。
無理難題を押し付ける経営側と、虐げられる現場。
いかにも日本人好みの物語ですよね。
マスコミも、大抵この視点で報道します。
しかし、筆者はそうは思いません。
自分たちの権利が侵害されているのに、なぜ沈黙するのか。
結局、権利というものを「自ら勝ち取った」のではなく、「お上(GHQ)から恵んでもらった」事が影響しているのでしょう。
それともう一つ。
「自分だけ休憩すると周りに迷惑がかかる」という「道徳的感情」です。
これも一見すると「責任感」「仲間思い」に見えますよね。
しかし、裏を返せば「周囲の空気へのブリッコ」とも言えます。
日本における「空気への同調圧力」はきわめて強力です。
戦時中、軍部はこれを利用し、特攻隊への参加を「命令」ではなく「志願」とすることに成功しました。
「命令」ならば、その命令者に責任が掛かりますからね。
「志願」ならば、自己責任です。
「お前が好きで選んだんだろ」と言えるわけです。
「みんなに迷惑が掛かる」問題も、これと全く同じ構図です。
大抵の場合、経営側は「休憩をちゃんと取れ」「残業するな」と指示しています。
しかし、肝心の人員配置は増えない(むしろ減ってる)。
ではどうするか。
ここで「現場の頑張り」で帳尻を無理やり合わせてしまうわけです。
しかし、一度生じた「矛盾」が無くなることはありません。
外部化されるだけです。
「休憩昼食も取らずに走り回った結果、交通事故を起こす」
「表面上の数字と、現場の実態がズレる(最終的に虚偽のIRとなる)」
「表面上は上手く回っているように見えるため、ますますノルマが厳しくなる(かんぽの不正営業もこれですね。最終的にお客さんにつけが回りました)」
こんな感じですね。
結局「所属集団内」の矛盾を「社会全体」へと転換しているにすぎない。
合成の誤謬です。
こんなこと、もうやめませんか?
法に則って、仕事をすればよいのです。
表面上取り繕っても、最終的に誰一人得をしないのだから。
2019年3月30日 日本経済新聞より引用
日本人がサービス残業漬けで懸命に働いても、休憩はおろか長期バカンスをしっかりとっている欧州に生産性で及びません。
いや「サービス残業漬けで懸命に働く」からこそ、生産性が伸びないのです。
これが、合成の誤謬というものです。
「周囲の空気」ではなく「自らの意志」で能動的に行動しましょう。
日本は法治国家です。
「空気=道徳」ではなく、法に則って行動すればいいのです。
そうはいっても、仲間がいないと心細いしなぁ
筆者は、こういう「仲間がいないと行動できない人間」は一切信用しません。
一人で意思を貫けばいいだけです。
法に従うのですから、大したリスクテイクではないでしょう。
我が社でも「求人を掛けても全く集まらない」と嘆いていますが、新人一日目から昼食も休憩もとれない、そんな職場に人が来るわけがありません。
筆者の前任局では、まさにそんな状況でした。
これからはホワイト企業でなければ生き残れません。
生産年齢人口が激減する中、一度ブラックイメージが定着すると人が確保できないのです。
ブラック企業を社会から追放しましょう。
それが、結局は社会のため、会社のためになるはずです。
そしてそれは、労働者、株主、経営陣それぞれが自分事として意識し行動することです。
「会社が悪い」「現場が悪い」
そんな責任の押し付け合いをしていては、何も変わらない。
変えられるのは、自分の行動だけです。