「分配」の本質とは何か

明けましておめでとうございます。

サイコパスの郵便屋さんです。

 

昨年の10万円定額給付金に引き続き、子育て世代への給付金が支給されました。

世は「分配」真っ盛りですね。

 

これに加え、MMT(現代貨幣理論)をベースとした「ベーシックインカム」も議論の俎上に載せられています。

 

ベーシックインカムとは、簡単に言うと「すべての人に、最低限の収入を保障する」仕組みです。

少し前に、竹中平蔵さんが「一人7万円を毎月支給」という観測気球を飛ばして、話題になりました。

 

議論の背景には「労働をしてお金を稼ぐ」という仕組み自体が、危うくなってきた事があります。

AI、自動運転、ロボット化等ですね。

 

月7万円!

4人家族ならば、月28万円です。

これだけの金額が毎月支給されれば、別に無理してFIREなんて目指さなくても「好きなことだけして生きていく」事ができますよね。

 

しかし、そんなうまい話があるものでしょうか。

何か落とし穴があるんじゃないのか?

 

今日は、それについて考えます。

郵便局の「業績手当」で考えてみよう

ベーシックインカムを考える上で、ちょうど良い題材があります。

 

郵便配達員の、業績手当(営業)という制度です。

切手等の販売や集荷等、「営業活動」に対して支給される手当です。

 

一か月間の累積ポイントに基づいて、「業績手当」として換金され、毎月給料日に支給されます。

 

効率よくポイントを稼ぐには「奪還営業」が一番です。

荷物を他社から奪還することで、1件につき80ポイントが支給されます。

 

さて、ここで、給与明細には「1ポイント=100円」と記載されていたとします。

よっしゃ!奪還1件80ポイントだから、8,000円ゲットだぜ!

 

普通に考えると、そうなりますよね。

 

しかし、ここには罠があります。

 

物事は「抽象的に」考えていかないと、本質が見えてきません。

1ポイント単価100円×80ポイント=8,000円

という、具体から入っては罠にかかります。

 

どういうことかお話ししましょう。

 

実はこの業績手当、あらかじめ班(グループ)ごとに「原資」が決まっています。

 

会社は「班の頑張りに応じて、原資は増減する」と説明していますが、実際はそうではありません。

標準偏差を用いた手法」により、頑張ろうが頑張るまいが、ほぼ原資は一定です。

 

では先ほどの例で考えてみましょう。

ここでは、シンプルに3人構成の班で考えます。

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班員はそれぞれ、各10ポイントずつ営業ポイントを獲得しました。

班員Cは、これに加えて奪還ポイント80を追加的に獲得しました。

 

原資は11,000円だとすると、ポイント単価は

11000円÷110ポイントで、100円です。

 

班員Cの明細には、100ポイント×90ポイント=9,000円と記載されます。

 

さて、ではここで班員Cが「奪還ポイントを獲得しなかった場合」を見ましょう。

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ポイント単価

11,000円÷30ポイント=約366円です。

 

先ほどと比べると、ポイント単価が3.6倍に上がってます。

原資が一定で、総ポイント数が3.6分の1になってるから、当たり前です。

 

要は、先ほどは班員 Cが奪還ポイントを獲得したことにより、

ポイントがインフレを起こしているのです。

 

では、班員Cが80ポイントを獲得することで「追加的に得た利益」はいくらか。

 

9,000円-3,666円=5,334円

 

こうなります。8,000円ではありません。

 

1ポイント単価100円も、奪還ポイント80も、100×80=8000も、一つ一つはウソではありません。

 

しかし、実際には「インフレ」により、追加的利益は5,334円に留まるのです。

 

では、ここで班員Cが、他の班員にも

頑張って、みんなで奪還営業しようぜ!

と声をかけ、実際に成果を上げたとします。

 

この場合、手当の支給はこうです。

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はい、当たり前ですね。

 

ポイントは更にインフレし、

1ポイントあたり41円。

 

結局、何も営業しなかった場合と全く同じ手当額になります。

 

何ともヘンテコリンな制度ですよね。

あ、本社の名誉のために言いますが、彼らはこの問題をしっかり認識しています。

頭のいい彼らが、こんな事を理解してないはずがありませんから。

 

うちの会社は、経営陣、組合、局長会、持ち株会社総務省等々、権力構造が異常に複雑です。

 

本社の担当者が「まともな」起案をしたとしても、この構造の中でもみもみされ、結果としてヘンテコリンになってしまうわけです。

ま、日本は昔からそうですよねw

 

給付金、ベーシックインカムの原資はGDP

さて、話をベーシックインカムに戻します。

 

定額給付金も含め、ベーシックインカムも、この手当制度と構図は同じです。

 

給付金の「原資」はGDP(付加価値の生産量)です。

 

ここは大事なところですので、もう一度言います。

 

給付金の「原資」はGDP(付加価値の生産量)です。

 

「お金」ではありません。

お金は、先ほどの例での「ポイント」にすぎません。

 

「お金」は「借り手」さえいれば、無限に刷ることが出来ます

 

逆に言えば、借り手がいなければ、お金の量は増やせません。

借り手が、借金を銀行に返してしまえば、そのお金は消滅します。

 

バブル崩壊以降、資金需要の減退により、民間は借金しなくなりました。

 

みんなが借金を返していくと、お金はどんどん消滅してしまいます。

 

そこで、これをカバーするため、政府が民間に代わって「借り手」の役割を担う事になりました。

 

しかし、この財政支出の多くは非生産的な分野に投資され、GDP(付加価値の生産)の成長には繋がりませんでした。

 

日本のGDPは、ここ二十数年間、ほとんど伸びていません。

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週間東洋経済onlineより


伸びないGDPと、増え続ける通貨供給量マネーストック

 

これは、「商品の生産」が伸びないのに、「商品引換券」だけが増え続けていることを意味します。

 

原資が増えないのに「ポイント」だけが増え続けるのと同じ

 

つまり、給付金やベーシックインカム「お金の価値」を薄めて、支給しているにすぎないのです。

 

やっかいなのは、ポイントと違い、お金が商品に引き換えられるまでにタイムラグがある事です。貯蓄に回ってしまう訳です。

 

従って、インフレが直ぐに表面化する事がない。

 

その代わりとして発生するのが、株価や不動産の異常な上昇。

つまり、資産バブルです。

 

政府による、「ポイント」バラマキから資産を守るには、これらに投資する事が不可欠です。

 

結論を言います。

 

給付金、ベーシックインカムの本質は

預金者から投資家への富の移転です。

 

困っている人を救う為

失業者を守る為

子育て世代を支援する為

 

どんな名目で給付金を出そうが、それは最終的に投資家の利益にしかなりません。

 

騙されないためには「抽象」から考える

1ポイント100円なら、80ポイントで8,000円ゲットだ!

うちは子供二人だから20万円よ。うれしいわ!

 

物事は、具体論から入ると本質が見えてきません。

本質は、いつでも抽象的です。

 

そして、「抽象」から「具体」は見えても

「具体」から「抽象」は見えません。

 

従って、抽象的思考の得意な「政府や本社の偉い人」にいいように扱われます。

 

確かに、日常においては「具体的」な知識、技術が役立ちます。

しかし、それだけでは方向性自体を誤ってしまう恐れがあるのです。

 

本質は、いつでも抽象的です。